コラム

トヨタ渾身の超高級ドライバーズカー、セルシオ。レクサスブランドの立役者にして、世界の高級車に影響を与えた革命児

1989年。2019年の現在からちょうど30年前、日本は未曾有のバブル経済に沸いていました。日本の自動車工業も成熟期を迎え、多くの名車が登場します。特に1989年は、世界に影響を与えた傑作車が数多く生まれた年であり、代表的なものでは日産・スカイラインGT-R(BNR32型)、初代マツダ(ユーノス)・ロードスター、そしてこの記事で紹介する初代トヨタ・セルシオが登場しました。
平成最初の第10回(1989〜1990年)日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、日産・フェアレディZやトヨタ・MR2などのスポーツカー勢をおさえて、見事トヨタ・セルシオが獲得。バブル景気も相まって国内でも売れに売れましたが、一方で世界の高級車市場に多大な影響を与えました。世界の高級車市場の変革者、トヨタ・セルシオの魅力を今改めて紐解きます。

欧米偏重だった高級車市場

第二次世界大戦終了後、欧米に追いつき追い越せで始まった日本の自動車工業は、1960〜1970年代に急速に発展を遂げ、1980年代には生産台数、生産品質、そして性能といった面でも欧米に引けを取らないレベルにまで成長していました。ヨーロッパでも北米でも、日本車は安く、性能に優れ、故障しにくいという認識が広まっていたのです。
しかし、それはあくまでも「大衆車」という括りの中だけの話。当時の日本車には、メルセデス・ベンツ・Sクラス、BMW・7シリーズ、キャデラック・デビル、リンカーン・コンチネンタル、ロールス・ロイス・シルヴァースピリットなどに匹敵するような、国際的な競争力を持つ高級車が存在しませんでした。トヨタにはすでに「センチュリー」が存在していましたが、あくまで「ショーファードリブン」(オーナー自身が運転しない)前提のクルマ。オーナー自身が運転するパーソナルカーのフラッグシップは、国際的なレベルで見渡すと事実上「空位」になっていたのです。
そもそも、ドイツ車とアメリカ車が優勢な高級車市場に、日本車が割って入ることは難しいと考えられていました。どの高級車メーカーにも長い伝統と実績、そして長年培われてきた格式の高さがあり、クルマの性能の良さだけでは「ブランド」は確立できない、とされたのです。

クルマを作るだけではなく、ブランドの確立をも目論む


出典元:ウィキメディア
そんな「自動車業界の常識」に真っ向から挑んだのが、トヨタでした。トヨタは1980年代はじめから「国際社会に通用する高級車をつくる」ということを前提に、まずは主マーケットである北米の高級車ユーザーに対して徹底的なマーケティングを行います。すると、浮かび上がってきたのは、当時の欧米の高級車に対する不満でした。乗り心地や静粛性について満足していないことや、故障が多いこと、修理費が高いことなど、性能・信頼性・品質・アフターサービスについて、多くの不満点を抱えている実情が浮き彫りになったのです。
参考:セダンの買取専門ページです
トヨタは、高級車製作の伝統こそないものの、こうした不満を解消する、圧倒的な乗り心地と静粛性を実現した高品質かつ信頼性の高いクルマを開発することで、高級車市場に割って入る隙があると判断。ついに開発計画をスタートさせます。
北海道にはドイツ・アウトバーンでの走行を想定したテストができるように新たにテストコースを建設し、十分な走り込みが行えるように整備。販売網に関しても、それまでのトヨタ車と差別するため、新たな高級車販売チャンネル「レクサス」を設立します。

当時の最新技術を惜しみなく投入

初代セルシオの設計や製作は、それまでのトヨタのクルマ作りとは一線を画していました。一つ一つのパーツの工作精度や仕上がりを向上させ、それをクルマ全体に適用するという気の遠くなるような作業が行われたのです。
エンジンを例に挙げると、発生した振動をブッシュ類で吸収しようとするのではなく、そもそも振動が発生しないようにエンジンを設計し組み上げる、という考え方で進められました。例えば、ベアリング部はそれまでにない高い精度で加工された後、1μm単位まで測定してクリアランスを決定。世界初の電子制御式油圧駆動クーリングファンを採用することで最適な風量と振動の低減を図るなど、当時の最新技術が詰め込まれたエンジンは、振動面では不利なV型8気筒エンジンながら極めて高い静粛性と圧倒的な低振動を実現しています。自然吸気の4リッターエンジンはDOHCで高効率をも追求し、最高出力260ps、最大トルク36.0kgmという優れた性能を発揮。フラッグシップサルーンにふさわしい強心臓を手にしました。
また、エンジンオイルレベルセンサー、冷却水レベルセンサーを搭載し、タイミングベルトおよび補機駆動ベルトにオートテンショナーを組みこむなど、さらなるメンテナンスコスト削減への対策が取られています。
おおらかな曲線で構成された美しさと気品を感じさせるセダンボディは、同時に空力性能も徹底的に追求。エンジン下部を大型のアンダーカバーで覆う、深いテーパー絞りのドアやフェンダーの採用、わずかに上方に反ったリアトランク後端などの空力処理の結果、空気抵抗係数(Cd値)は0.29と、当時世界最高クラスの数値を実現。走行時の不快な風切り音も最大限抑制されています。
贅沢な構成の4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションは、グレードによって3タイプが用意されました。標準車のA仕様と上級グレードのB仕様はコイルスプリング式。B仕様には可変減衰式ダンパーを搭載した電子制御サスペンション「ピエゾTEMS」を搭載しており、路面状況に応じて通常の「ハード」から「ソフト」に瞬時に切り替え可能でした。最上級グレードのC仕様は、ショーファードリブンまで見据えたホイールストローク感応式電子制御エアサスペンションが搭載されています。トヨタ渾身のこのエアサスペンションは、フラットかつ快適な乗り心地を実現し、世界中のユーザーを驚かせました。
インテリアのクオリティも、それまでのトヨタ車とは比較にならない高品質な仕立てになっています。日本車として初めて自発光式メーターを採用。高品質なウォールナットや本革、高級ファブリックがふんだんにあしらわれた内装は、最高級ドライバーズカーにふさわしい品位を備えていました。一方でコンピュータ制御のオートエアコンや高級オーディオシステム(シートがファブリックや本革かで、イコラーザーの設定が異なる)などの最新技術が投入され、室内の快適性向上に一役買っています。

北米での成功で世界に衝撃を与える


出典元:ウィキメディア
北米ではレクサス・LS400、日本ではトヨタ・セルシオとして発売された初代モデルは、他社もユーザーたちも最初の頃こそ静観していたものの、徐々にその圧倒的な静粛性、快適性に気付き始め、結局メルセデス・ベンツ・Sクラスの売り上げを優に超える大ヒットモデルとなります。購入したユーザーたちは、高い品質と信頼性、そして販売店のアフターサービスのきめ細かさにも感銘を受け、レクサスのブランドは北米で一気に浸透しました。
欧米他社に与えた衝撃も非常に大きいものでした。「安くて壊れないクルマを作る」日本の大衆車メーカーが短期間で「信頼性の高い超高級ドライバーズカーを作る」ブランドを確立してしまったこと。クルマの快適性・静粛性が圧倒的だったこと。それでいて、車両価格は低めに抑えられていたこと。メルセデス・ベンツがセルシオを3台購入し、1台はバラバラに分解して検証、2台は比較対象用として利用したのは有名な話です。世界の高級車市場はトヨタ・セルシオの登場で、新たな時代に突入することになりました。

中古市場では550台前後が流通

セルシオは1989年から2006年まで約17年間、3代目モデルまでが生産され、その後はレクサス・LSに吸収・消滅してしまいます。その後もセルシオの復活を求める声は少なくありません。中古車市場では現在でも550台前後が流通しており、初代モデルは80万円前後、2代目・3代目モデルは50万円前後という相場になっています。最もコストがかけられた初代モデルが、わずかに相場が上昇しているのが気になりますね。これから少しずつ上がっていくのでしょうか…。
トヨタが明確なビジョンを掲げたクルマを本気でつくり、その結果新たなブランドを確立し、かつ世界中の高級車市場の大きな影響を与えた稀代の名車、トヨタ・セルシオ(レクサス・LS400)。本格的なクラシックカーになってしまう前に、一度はステアリングを握ってみたい名車ですね。それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
[ライター/守屋健]

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