クルマを運転する上でタイヤはとても重要なパーツです。乗り心地やブレーキの制動距離、燃費などさまざまなことに影響を与えます。
ところで、フェラーリやランボルギーニといった超高級スポーツカーは一般的なクルマとは全然違う太さのタイヤを履いていますよね。世界最高峰のスペックを誇るクルマが太いタイヤを履いているということは、タイヤは太ければ太いほど性能が良い?
この記事では気になるタイヤの太さについて解説します。
タイヤサイズのあれこれ
タイヤの側面にはメーカー名などと共に「215/45R17」というような数字が必ず表示されています。この数字がタイヤサイズを表しているのですが、パッと見ではなかなか意味が分かりにくいですね。「215/45R17」の場合は「幅215mm、偏平率45%、ラジアル構造、リム径17インチ」を表しています。タイヤの太さはこの先頭の数字、「215」の部分を見れば分かるというわけです。
2000年頃までの新車装着タイヤは、一部のスポーツグレードを除いて205mm以下の太さがほとんどです。リム径(タイヤ内径、ホイールの外径)も16インチまでが一般的で、17インチ装着車はそれだけで特別な印象を与えていました。現在では40~60%が一般的な偏平率も、1980年代に低偏平タイヤの規制が緩和されるまでは70%や82%でした。この「偏平率」については後ほど詳しく見てみましょう。いずれにしても、ここ30年ほどでタイヤの外見はだいぶ印象を変えているはずです。
太いタイヤのメリット・デメリット
スポーツカーには伝統的に太いタイヤが装着されています。かっこいいから、という理由もあるかもしれませんが、主目的は「グリップ」を確保することです。
車はタイヤと道路の摩擦力を利用して動いているため、どんなにパワーのある車でも摩擦力の限界以上の力は利用できません。レースなどでスタート時にホイールスピンを起こしている光景を見たことがある方もいるかと思います。摩擦力の限界を超えるとタイヤは空転し、パワーを道路に伝達できなくなります。このパワーを伝える摩擦力は「グリップ」と呼ばれ、タイヤに求められる性能の中でも特に重要なポイントとなります。そして最も簡単にグリップを増やす方法が「タイヤの接地面積を増やす」、つまりタイヤを太くすることなのです。
ですので、エンジンパワーの小さい車が太いタイヤを装着するメリットはありません。むしろ摩擦力が「転がり抵抗」として機能してしまい、また重量も増えるため燃費や走行性能の悪化を招きます。
同じスポーツカーでも、ラリーなどでは逆にあえて「細いタイヤ」を装着している場合も見られます。これは接地面積を減らすことで単位面積当たりの荷重を増やし、荒れた未舗装路や雪上でもタイヤの摩擦力を確保することが目的です。基本的にはタイヤ幅が広い方がグリップを確保できますが、未舗装路や雪上では地面が凸凹しており、太いタイヤでも接地面積が稼げません。それならば荷重でタイヤを地面に押し付けてしまおう、というのが「細いタイヤ」の意図です。
タイヤの太さによる比較
「太いタイヤと細いタイヤ、どちらがいいの?」
この問いに答えることは簡単ではありません。シチュエーション、求める性能、車のエンジンパワーや重量、様々な要素によって答えが変わってきます。しかし基本的には純正採用されているサイズがベストバランスであることは間違いありません。どちらが良いとは言えませんが、「タイヤの太さによって何が変わるのか」を見ていきましょう。
まずは前述した通り、「グリップ」が変わります。同じコンパウンド(ゴム)なら、グリップの点では太いタイヤが有利です。グリップが大きいということは抵抗が大きいということでもあるため、燃費の点では細いタイヤが有利となります。
コーナリング性能はどうでしょうか。太いタイヤは接地面積が大きいため、高い速度域でカーブを曲がるような場面でも安定性を確保できます。ブレーキ性能についても同様で、接地面積の大きさが利点となります。一方で、路面の状況が悪い場合には太さが裏目に出る場合もあります。接地面積が大きいと言うことは、タイヤを地面に押し付ける圧力は小さくなります。雪上や未舗装路では空転や横滑りしやすくなり、せっかくのグリップを生かせません。
次に重量ですが、当然ながら太い方が重いため不利になります。タイヤとホイールの重さは「バネ下重量」と呼ばれ、運動性能だけでなく乗り心地に与える影響も大きいと言われます。サスペンションがバネによって伸縮する際、タイヤが重いと振動が収まるまでの周期が長くなり、路面からの突き上げを受けた際にもより大きな衝撃を伝えることとなります。つまり、乗り心地の面でも大きく重いワイドタイヤは不利となります。
最後に価格面ですが、当然ながら太いタイヤの方が高額になります。燃費と合わせ、経済性は細いタイヤに軍配が上がるでしょう。初代プリウスやインサイト、アクアといった燃費重視の車は165サイズが定番でした。BMWのi3は19インチという大径ホイールを装着していますが、タイヤ幅はなんとF155/R175という細さです。
タイヤメーカーによる違い
ブリヂストン、ヨコハマ、ミシュラン、ダンロップ……などなど、世界にはたくさんのタイヤメーカーが存在しています。メーカーによる性能差や特徴はあるのでしょうか。
結論から言えば、性能差は存在します。しかし一概に良い・悪いと判断できるものではありません。タイヤはゴム製品であり消耗品ですから、紫外線による劣化や硬化によるひび割れ、使用による摩耗は避けられません。これらの何を重視するかによって性能のバランスが変化し、長所や短所が発生します。全てが長所というタイヤが理想的ですが、それは非常に高価なものとなるでしょう。現在販売されているタイヤは低価格帯のものでも必要十分な性能を持っているものばかりであり、「それ以上」を求めるのであれば嗜好性の強い高価格帯製品になります。
世界シェアNO.1のブリヂストンをはじめ、横浜ゴムや住友ゴムといった国内メーカーのタイヤであれば、性能と価格とのバランスも含めてほぼ満足できるかと思います。高性能タイヤとして挙げられることも多いミシュランやコンチネンタルの上位モデルは、国内で日常的に使うには過剰性能な部分もあり、価格とのバランスを考えると満足度は下がるかもしれません。逆に近年シェアを増やしているアジア系格安タイヤなども日常範囲の性能としては不満のないレベルに仕上がっており、価格対比の満足度は高いでしょう。いずれにしても、初めから「メーカー買い」はあまりお勧めできません。車種、用途、重視する性能から適合サイズのあるモデルを絞り、価格を考慮して選択し、それでも決めきれない時にはメーカーで選ぶのもアリかと思います。
低偏平タイヤとは
冒頭でタイヤサイズの見方を説明しました。幅やリム径は分かりやすいですが、「偏平率」とは何でしょうか。あまり聞きなれない言葉ですが、これはタイヤの断面幅と断面高(サイドウォールの高さ)の比率を表していて、小さい数字ほど「薄い」タイヤになります。「215/45R17」サイズの偏平率は45%であり、断面幅が215mmなのでサイドウォールの厚さは9.7cmほどになることが分かります。外見上は薄いタイヤの方がかっこいい気もしますが、薄くなったサイドウォールは剛性確保のために硬くする必要があり、少ない空気と相まって乗り心地は悪化します。
ホイールのインチアップを考えている方は、この偏平率の存在を忘れないようにしましょう。インチアップの際には「タイヤの外径を変えない」ことが原則です。外径が変わるとタイヤの外周長、つまり1回転した際に走る距離が変わります。実はこれが危ないのです。
車のスピードメーターはGPSや光学センサーなどで速度を計測しているわけではなく、タイヤの回転数と外径から算出しています。つまり、タイヤ外径が変わるとメーターがずれます。走行距離計、燃費表示なども回転数から算出しているため、全てずれます。運転支援装置にとって速度は重要なパラメータですから、車の認識する速度がずれていれば正しく作動しません。危険な状態ですね。メーター誤差が一定以上になると車検も通らず整備不良となります。
このように「タイヤの外径を変えないこと」は車を安全に走らせる上で非常に重要な決まりごとです。ホイールをインチアップするとタイヤの内径が大きくなります。タイヤ幅が変わらない場合、同じ偏平率のタイヤでは外径が大きくなってしまうためNGです。例えば「215/45R17」を純正装着していた車にインチアップで「215/45R18」タイヤを装着した場合、内径差の1インチ分(約2.5cm)がそのまま外径差となり、1回転あたり8cmほどの誤差が発生します。たったの8cmですが、メーター読み100km/h走行時に実は104km/hで走行していることになるため、侮れません。
現実的にはタイヤの摩耗によって外径は徐々に小さくなりますし、同一サイズでもメーカーや銘柄によって若干の差があります。スピードメーターも予め誤差を想定した作りになっているため、そこまで厳密に考えなくても大丈夫です。しかし「外径を合わせる」という原則は必ず意識しましょう。「215/45R17」装着車に18インチホイールを合わせる場合は、タイヤサイズを「225/40R18」に変更することが多いようです。これでも若干の誤差は発生しますが、内径を変えただけの場合と比べ半分程度に縮小できます。このようなインチアップサイズはタイヤショップ等で相談すれば適合可否をすぐに調べてもらえますが、ネット通販などで購入する場合は十分にご注意ください。
まとめ
タイヤの太さやサイズについて、色々と見てきました。最も重要なのは「車に合ったタイヤサイズにする」という点です。その意味で純正サイズはメーカーの考える理想のサイズであり、無視できないものでしょう。インチアップする際にも外径を合わせなければ様々な弊害が発生します。太すぎるタイヤを装着すれば、タイヤハウス内に干渉しハンドルが切れなくなるケースも起こり得ます。よく「車はハガキ1枚の面積で走っている」と言われますが、実際タイヤの接地面積はその程度です。たったそれだけの面積で100km/hからのフルブレーキにも対応しなければいけないタイヤは、車にとって非常に重要なパーツです。見た目も重要ですが、機能性を損なっては本末転倒です。ドレスアップの際は慎重に行いましょう。