スバル・レオーネの後継車レガシィは、発売以降徐々にグレードアップし、上級車種へとシフトしていきました。そのため、その下のポジションを埋める車種として1992年に生まれたのがスバル・インプレッサです。今回はそのインプレッサの、特にクーペモデルに絞ってご紹介します。
初代インプレッサのクーペモデル「リトナ」
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当初はセダンと5ドア・ハッチバックのみの展開でしたが、1995年1月にそれまで輸出向けだった2ドアクーペモデルを「リトナ」の名前で国内販売するようになりました。1.5リッターのFFモデルと、1.6リッターのAWDモデルです。このAWDなんですが、ATモデルはフルタイムAWD、MTモデルはパートタイムAWDでした。
クーペと言ってもリトナは特にスポーティなモデルというわけではなく、カジュアルでリーズナブルなモデルでした。エンジンも1.5リッターモデルで97ps、1.6リッターモデルでも100psという、ごく普通の乗用車で、特に注目もされず翌1996年9月にはカタログから消えてしまいました。
ある意味大変な希少車かも知れません。もしかするともうほぼ世の中に生き残っていないのではないでしょうか。
リトナが生まれ変わって、インプレッサWRX TypeR STiに
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そしてその後、1996年に登場したクーペが、インプレッサWRX TypeR STiバージョンです。スバルのレース部門を担当する子会社、スバルテクニカインターナショナル株式会社が手がけたコンプリートマシン、WRX STiの2ドアクーペタイプで、先述のリトナをベースに製作されました。
WRX STiとしてはバージョン3に当たるモデルです。実はそれまでWRX STiは形式認定を取得したモデルではなく、新車登録時にその都度改造申請をして登録するというまさにスペシャルな自動車でしたが、このモデルから正式な形式認定を取得しています。インタークーラー付ターボを装備した2リッター水平対向4気筒DOHCエンジンは、当時の国内モデルの自主規制値いっぱい280ps/35kgmを発生します。また駆動方式はフルタイムAWDでしたが、これはダイヤル操作で前後のトルク配分を設定できるようになっていました。
インプレッサがWRCで大活躍していた時代で、WRXもラリーのベース車両として人気で、イヤーモデルとして戦闘力を年々強化していた頃です。STiもバージョン4、バージョン5と毎年進化していて、最終的にバージョン6まで発展しました。そして2000年8月、インプレッサが二代目に移行して、WRX TipeR STiは終了しました。
以後、スバルからは2ドアクーペは姿を消し、今に至るまで現れていません。いわばスバル最後の2ドアモデルということですね。なお、イニシャルDに登場した藤原親子が乗っていたインプレッサは、このWRX TypeR STiでした。
特別なクーペ、22B-STi Version
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1998年3月、インプレッサのWRC三連覇を記念した400台限定のスペシャルなモデルが発売されました。22B-STi Versionです。インプレッサWRC97のルックスが忠実に再現されたボディは、まさにWRCマシン・レプリカです。アリ・バタネンが、カルロス・サインツが、そしてコリン・マクレーが大活躍したインプレッサ555そのもののオーラをまとっていました。エンジンは専用にチューンされた2,212ccのEJ22改が搭載されていましたが、最高出力は自主規制値いっぱいの280psで、スペック上は通常のWRX TipeR STiと同じです。しかしトルクは37kgmにパワーアップしています。
そしてこのモデルの一番の特徴は、1,770mmまでワイド化されたボディです。5ナンバー枠一杯、1.690mmから80mmも広げられたフェンダーは、樹脂製のブリスターフェンダーではなく、鋼板です。ボディを切って、溶接して、という手作業で仕上げられているのです。
22B-STi Versionは、500万円という価格でした。当時のWRX TypeR STiがおよそ300万円でしたから、かなり高い価格設定でしたが、一瞬で完売してしまいました。その希少価値と合わせて、まさに特別なモデルです。
インプレッサ・クーペの中古価格は?
インプレッサのクーペタイプという括りですが、リトナとWRX TypeR STi、そして22B-STi Versionはまったく違ったクルマなので、それぞれ分けて考える必要があります。
まず最初にリトナですが、これはスバルの中でもトップレベルの不人気車種で、現在中古車は検索してもヒットしません。なので価格分布も下取り相場も存在しません。
次にWRX TypeR STiですが、元々がそうそう台数の出ない尖ったスポーツバージョンで、しかも販売終了から20年も経っていますので、こちらもかなりタマ数は少ないです。さらに、競技に使われたりハードに走り込まれたり、既に廃車になってしまったものも多いと思われ、程度のいいものは貴重です。だいたい平均して180万円前後、といった辺りのようです。
そして既に20年経過ということで、この先は価格が下がるとも考えられず、状態を維持できればむしろ上がる可能性もあります。なのでいわゆるリセール価格は100パーセントを超えてくる可能性もあります。但し、部品の供給はかなり厳しいと思われますので、コンディションの維持にはそれなりに苦労するのではないかと思われます。
参考:スバルの買取専門ページです
最後に22B-STi Versionですが、これはもう希少車と言っていいでしょう。元々が400台しか出回らなかったクルマですから、中古車市場でもほとんど見られませんし、一部で投機の対象にもなっているようで、ほぼ1,000万円以上の価格がつくと考えて間違いないようです。また、この先価格が下がる要素はほぼありませんので、もはやリセール価格とかそういう問題ではありません。欲しければ、そして買えるチャンスがあればとりあえず買っておきましょう、という状態かと思われます。
スポーティなクルマのイメージが強いスバルですが、今回あらためて見てみると意外と2ドアクーペは少ないのですね。特にインプレッサのクーペは、いろいろな意味で希少車揃いです。しかもそのルーツになったのがリトナだった、という事実もまた、意外で面白いですね。
[ライター/小嶋享]