世の中には「定番」「ロングセラー」と言われている製品が数多くありますが、かつてはセダンも「クルマの定番製品」のひとつでした。しかし、昨今のSUVやミニバンのブームで、日本のみならず世界市場でもセダンは「定番」の座から陥落してしまいます。
その昔、セダンが定番製品だった頃は、モデルチェンジなしで長く生産され続けることも少なくありませんでしたが、モデルチェンジのサイクルが早くなった今、そうしたクルマは極めて希少な存在となっています。そんな中、6年の長きに渡りモデルチェンジなしで続けられているクルマが、今回ご紹介する日産シルフィです。
今回は、日産の良心を感じさせる誠実な作りのセダン、シルフィの魅力に迫ります!
日産シルフィのルーツはブルーバード
シルフィの名前が初めて冠されたのは、2000年に登場した「ブルーバード・シルフィ」から。ブルーバードとしては通算11代目にあたります。1.8リッターエンジンの2WDモデルは当時最高クラスの排出ガス性能を誇り、ハイブリッドカーを上回るほどの「きれいな排気ガス」が特徴でした。そんな環境性能の高さから、当時の日産のラインナップ中では比較的堅調な販売を記録しています。
2005年に登場した「ブルーバード・シルフィ」の2代目モデルを経て、2012年には現行B17型が登場しました。3代目モデルではついにブルーバードの冠が取れて単に「シルフィ」という名称になり、またそれまで頑なに守ってきた5ナンバーを捨て、3ナンバーサイズに進化しました。
3ナンバーサイズになったとはいえ、全幅1,760mmと比較的ナローなサイズ感を維持しており、5ナンバー時代の使いやすさをキープしていると言えるでしょう。全長は4,615mmとなっていますが、後席の広さと居住性の高さは折り紙つきで、価格以上の快適性を備えています。
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できるだけラインナップをシンプルにすることで、販売価格の上昇をできるだけ抑えようとする努力が感じられるのも特徴のひとつです。ミドルクラスセダンの性能と高級感をきちんと維持しながら、最廉価グレードは200万円を切るプライスタグが掲げられています。
セダンとしての心地よさを追求したパッケージング
3ナンバーサイズに進化したことからもわかる通り、日産シルフィは国際戦略車として開発されました。世界130カ国で販売されるシルフィは、生産も日本のほか中国、台湾、タイ、メキシコ、アメリカで行われています。日本向けの車両はすべて横須賀にある日産自動車追浜工場で生産されていますが、部品自体の国内自給率は35パーセントほど。ボディシェル本体、エンジン、トランスミッション、バッテリー以外の部品は海外から輸入しているものの、「日本のものづくり」を絶やさずに、かつ採算のバランスを取る工夫がされています。
ホイールベースは2,700mmで、5ナンバー時代と変化はないものの、横方向の余裕が大きくなったことで、室内は数値以上に広々とした印象を受けます。もともと広かった膝周りのスペースは現行型でも健在で、さらに上のクラスのセダンに匹敵するほど。後席に人を乗せることが多いユーザーにとっては、とても嬉しい設計となっています。
乗り心地は、ふわふわと言うよりは、足をしっかりと動かして、ショックを一発で吸収しようとするタイプ、と言えばイメージしやすいでしょうか。電子デバイスに必要以上に頼らず、きちんとした乗り心地を実現している点は、どことなく一昔前の実直な「日本のセダン」を彷彿とさせます。同乗者にとっても十分な快適性が確保されている上、ドライバーにとっても視線がフラットに保たれるため、長時間運転の際の疲労を低減してくれることでしょう。
日産シルフィのおすすめグレードはこれだ!
ここでズバリ、セダンラボの考える日産シルフィのおすすめグレードを発表します。「X」です。え、これだけ?と思う方もいらっしゃるかもしれません。そう、日産シルフィには駆動方式やトランスミッション、エンジンのバリエーションがなく、グレードの表記が非常にシンプルなのです。では早速、選んだ理由を解説していきましょう。
日産のシルフィのグレード体系は最上級グレードから「G」「X」「S」の3つを基本に、特別仕様車の「Gルグラン」「Sツーリング」「X 助手席回転シート」をあわせた全6種類となっています。「X」はちょうど真ん中のミドルグレードということになりますね。
ベーシックモデルの「S」は200万円を切る価格が大きな魅力ですが、マニュアルエアコンやウレタンステアリングなど、あまりにも質素な装備がネックとなります。プラス約16万円でフルオートエアコンや本革巻きステアリングホイール、インテリジェントキー、後席エアコン吹き出し口が手に入ると思えば、「X」はかなりのお買い得グレードと言えるでしょう。
逆に最上級グレード「G」と「X」の間には約30万円の価格差があるものの、大きな装備の差はタイヤサイズが15インチから16インチになっていること、アルミホイール、キセノンヘッドライト、サイドエアバッグ、といったところで、少々の割高感は否めません。また乗り心地も15インチタイヤの方が穏やかかつ滑らかで、このモデルの性格に合っています。
ロングセラーモデルではあるけれど…シルフィの意外な弱点とは
日産シルフィに搭載されるエンジンは、1.8リッターの自然吸気直列4気筒エンジンで、131馬力を発生。それに無段階変速機を組み合わせていて、駆動方式はFFしか選択できません。他国向けのモデルではマニュアルや他の排気量のエンジンも用意されていますが、日本向けのモデルは極めてシンプルなラインナップとなっています。
完全無欠なクルマが存在しないように、シルフィにもいくつかの欠点があります。そのひとつが燃費です。JC08モードで15.6km/Lの燃費は、多くの同クラスのセダンと比べて見劣りしてしまいます。今後もハイブリッドなどの搭載などがない限り、大幅な燃費向上は望めず、ライバルたちに対して苦しい戦いが続くことでしょう。
また、現行シルフィはデビュー以降一度もマイナーチェンジをしておらず、先進安全機能については全く搭載されていません。安全性が重視される現代において、衝突被害軽減ブレーキシステムなどの装備がないことは、ユーザーから見てもあまりにもメリットが少ないと言えるでしょう。せっかくの真面目に作られたセダンなのですから、早急に対策してほしいところですね。
日産シルフィは、今時珍しいシンプルな「道具」
日産シルフィの国内月販台数目標は600台(デビュー当時)。メインターゲットは70歳以上の男性とされていました。とはいえ、先進安全機能は未搭載で、かつ燃費もあまり目立つところがなく、メインターゲットとされている人々に対する求心力の低さが気になるところではあります。他のアジアのマーケットでは決して「歳を重ねた大人のクルマ」という扱いはされておらず、日本国内でもそうしたターゲット層を広げる方向にシフトしてほしいですね!
セダンらしい走りの剛性感と、乗り心地に優れた日産シルフィ。奇をてらわず、セダンとはどういう乗り物か、ということを真面目に突き詰めた結果、シルフィは今時珍しい「シンプルな移動のための道具」として完成しました。
トランクは大きく、ゴルフバッグも4個は飲み込みますし、なんと言ってもその静粛性の高さでロングドライブでも疲れ知らずです。最近の凝ったデザインのクルマに辟易しているユーザーにとって、シルフィのクリーンなデザインは新鮮に映るのではないでしょうか。そう、シルフィは、日産の隠れた名セダンなのです。願わくは早急に改良を施して、今後も日産のセダンのエントリーグレードを支えるモデルとして頑張ってもらいたいですね。
改めて、日産シルフィのおすすめグレードは「X」と断言して、この項を締めたいと思います。ではまた次回お会いしましょう!
[ライター/守屋健]