車評論家マリオ高野さんに寄稿いただきました。 マリオ高野さんは日刊SPA!・オートックワンなどで活躍されている車評論家です。
中古のアメ車は世界最強のお買い得車
世界でもっともお買い得なクルマは何だと思いますか?
その答えは〝アメ車〟です。
アメ車というと、大排気量の大型車でガソリン垂れ流しの燃費極悪車。お買い得とはほど遠い散財グルマである、などと未だに思われがちですが、まったくそうではありません。
性能や車格が同じかそれ以上なのに、欧州の競合車よりも車両価格が断然安いのです。
たとえばスポーツカーの例を挙げると、ポルシェ911のベースグレードは1178万円。排気量は3.4リッターで350馬力ですが、アメ車の代表的なスポーツカーであるコルベットのベースグレードは918.2万円。排気量は6.2リッターで460馬力もあります。加速性能では、ポルシェ911の0-100km/h加速は4.8秒。コルベットでは0-60マイル(約96km/h)加速は3.8秒と、200万円ぐらい安いのに五角以上の性能を備えています。
スポーツカー以外のジャンルでも、だいたいこのような感じで、競合車よりも物量的に豊かで性能は五角以上なのに、2割から4割ぐらい安めの価格設定がなされているのです。このお買い得感は、中古車になるとさらに拡大するので、
「中古のアメ車は世界最強のお買い得車」
と言い切ることができます。
エンジンの排気量はただデカければ良いというワケではありませんし、世界的にはダウンサイジングが進んでいますが、それでも、大排気量がもたらす物量的な余裕はとても贅沢なもの。 アクセルを踏み込んだ瞬間から、アメ車ならではの物量的な豊かさに感動できます。アメ車のSUVを転がすと、その雄大な運転感覚に、日本がアメリカに戦争で負けた理由がよく実感できるでしょう。
モデルによっては細部の作り込みが甘かったり、内装などの質感が安っぽいと感じることもありますが、実際に安いのだから、ということで割り切る必要はあります。
あと、排気量がデカいと燃費が気になるところですが、実は意外に悪くありません。たとえば、ハマーH2は排気量が6リッター、車重は3トン近くもある巨体なSUVですが、それでも待ち乗りで4~5km/ℓ、高速巡航で6~7km/ℓほどは走りますから、トヨタのランクル200やベンツのゲレンデなどの、ハマーH2よりも小さくて軽いSUVとほとんど同じ。しかも、レギュラーガソリン仕様ですから、ガソリン代は競合車よりも安く済みます。
難点は自動車税が高くなることですが、スポーツカーやSUVでは前述した日欧の競合車でも似たような額になるので、アメ車だけが特別に高くなるということはありません。このように、アメ車には「日欧車と比べてお買い得な面が多々ある」という大きなメリットがあります。
種類で選ぶ。アメ車の中古車を選ぶ際のポイント
アメ車の中古車を選ぶ際にポイントとなるのは、同じモデルでも、「正規輸入車」と「並行輸入車」が存在する場合が多いということです。
正規輸入車とは、その名の通り正規販売店で販売されたクルマで、一般的には「ディーラー車」と表記されます。
一方の「並行輸入車」は、さらに「新車並行輸入車」と「中古並行輸入車」に分けられるので、アメ車の中古車には、「ディーラー車」「新車並行輸入車」「中古並行輸入車」の3種類があると思ってください。
(欧州車にもこの3種類が存在しますが、欧州車の場合は圧倒的にディーラー車のほうが多いです)
一般的に、中古車として安心できる順番は
「ディーラー車」>「新車並行輸入車」>「中古並行輸入車」
となるので、できるだけディーラー車から選ぶのが無難ですが、実績と信頼のある専門店なら並行輸入車でも良質なクルマを用意しているので、状況次第では並行輸入車でも問題はありません。 10数年前ぐらいまでは、走行距離メーターの巻き戻しなどの粗悪な物件が目立ちましたが、今ではそういうことをする悪徳業者はかなり淘汰され、中古並行輸入車でもアメリカ本国時代の整備・修理履歴の明確なデータをチャックすることが普通になったので、過度な心配は必要ありません。
世代で選ぶ。アメ車の中古車を選ぶ際のポイント
次のポイントは「クルマの世代」です。中古車として普通に流通しているのは90年代以降のクルマですが、2000年代初頭までに作られた世代のモデルと、2005年あたり以降に作られた新世代のクルマとでは、設計思想や性能面で大きな違いがあります。
前者のやや旧世代のアメ車は、昔ながらのシンプルで合理的な設計。大鑑巨砲主義的な雄大さを備えているモデルが多く、古き良きアメ車の味わいが色濃く味わえます。質感や性能面で大雑把な部分が目立ちますが、アメ車独自の世界を満喫したい人には、この旧世代のモデルがオススメです。年式が古い分、故障や消耗品の劣化の心配がありますが、整備ノウハウに精通し尽くした専門店が多く、部品も豊富なので、日欧の同世代のクルマと比べて、特に難しい点はありません。
ただし、旧世代のアメ車は見た目重視のカスタムが施される場合が多いので、粗悪な改造車を掴まされないようにご注意ください。
旧世代のアメ車は、フレームやエンジンの耐用年数は相当長いので、キチンとしたメンテナンスが受けられていることさえわかれば、年式の古さや走行距離の多さは気にしないで大丈夫です。
そして、2005年あたり以降に作られた新世代のアメ車は、日欧の競合車の性能や質感、運転フィーリングを強く意識して開発することにより、近代化や国際化が劇的に進みました。
その結果、全体的にドイツ車的なクルマとなり、往年のアメ車らしさはやや薄れたといえるものの、それでも日欧のクルマとはひと味もふた味も違う独自の個性や、欧州の同クラスのクルマよりも割安感が強い点も健在。
デザイン面では、コンサバなドイツ車よりも革新的なセンスが感じられるモデルが多いので、ドイツ車やレクサスでは普通すぎてツマラナイ、という人には強くオススメします。
最新モデルでは、キャデラックやマスタングでも2リッター台の4気筒エンジンを搭載するなど、国際的な流れに逆らわず排気量のダウンサイジングの波が押し寄せていますが、それでも「日欧車では得られない味わい」は濃厚に味わえます。
最後に、これはアメ車に限ったことではありませんが、クルマの世代を問わず、中古車を買う際に一番大事なのは「良いお店選び」に尽きます。
「良いアメ車屋さん選び」のコツとしては、質問や不満に対して「アメ車はこんなもんです」という言葉で片付けようとするスタッフが居るお店は要注意。昔から、アメ車はファッション感覚で乗る人が多く、性能や乗り味にはあまり関心がなかったり、メンテナンスへの関心が低いユーザーが多いので、お店の方もテキトーな対応をすることが多かったのは事実です。今ではかなり改善されましたが。